獄中ブログ

鳥肌スタンディングオベーション

アソパソマソ

なんのために 生まれて

なにをして 生きるのか

こたえられないなんて

そんなのは いやだ!

 

 

なにが君の しあわせ

なにをして よろこぶ

わからないまま おわる

そんなのは いやだ!

 

楽曲「アンパンマンのマーチ」(作詞 やなせたかし)より引用

 

※ここから先の記述は完全なるフィクションであり、実在する、あるいは実在しない人物、団体、作品、法律、キャラクター、その他商標などとは、一切の関係がありません。

 

 

ぼく、アソパソマソ!

アンパンで出てきてるヒーローなんだ。ぼくを作ってくれたのは、なんとあの天才博士にして、有名コックのジャメおじさん!ジャメおじさんは、いつもにこにこ、僕らのパン工場の頼れるリーダー!特にやりたいことがなくて経済学部に進んだけれど、就職活動に失敗して大学院に進学して、なんやかんや今の職に落ち着いたらしいよ!

ジャメおじさんが作ってくれた、ぼくのなかまを紹介するね!

最初はこの方、我らが誇れる切り込み隊長、食パソマソ!色白で顔の四角い人気者。たまに尖ったところもあるけれど、まっすぐな性格で裏表がないよ。あるとしても分かりにくいよ。日焼け止めを塗り忘れるとトーストマソになっちゃうんだ!

続いてはお待ちかね、メロソパソナちゃん!ふっくら優しくみんなを包み込む、僕たちのチームの紅一点!顔の傷跡については誰も触れないよ。ちなみに彼女のお姉ちゃんのロールパソナちゃんはもっとヤバくて、普段から包帯ぐるぐる巻きにしてて何かあったどころの話じゃなさそうだよ。すごいね!

あとは、カレーパソマソなどもいます。

 

実はぼく、正義のヒーローなんだ!

かばさんやねこさんやうさぎさん、それにライオンくんも、みんな仲良く暮らす街で今日もパトロールに大忙し。

困っているともだちを見つけたらすぐに助けるよ。お腹を空かしている友達がいたら自分の顔をちぎって渡すんだ。これはなかなか斬新な設定だと我ながら思っているよ。

 

あとは、あいつ。にっくき僕らの天敵、ばいきそまそ!

こいつはほんとにろくなことをしない。仕事もしてないくせに親からもらった仕送りをソシャゲの課金に突っ込んでそれを自慢してきたりする。ほかに自慢話といえばだいたい中学時代の話とかで全然おもんない。バイトに行くことを「出勤」とか言う。インスタにクソみてえな空の写真とかあげる。しかもそこに寒いポエムとか書いちゃう。あとシンプルにくさい。本当に嫌い。地獄に落ちればいい、というか地獄に落ちろ、というか僕が地獄に落としてやる!

だから、ばいきそまそがサークルの女をたぶらかしたりしてる時は僕が彼を徹底的に懲らしめるんだ!汚物は消毒だーーー!

 

そんなとき、みんなの声援は、熱くて、心強くて、僕を支えてくれるんだ。

「がんばれー!」「いいぞー!やっつけろー!」「もぎとれ!もいでしまえ!」

もちろん、僕とばいきそまそが戦うときにはテレビ中継もされるよ。僕の活躍は全国ネットで配信されるのさ!ほかにも、DA●Nとかでネット配信もしているよ。

でもね、いつも一回は敗けそうになってしまうんだ。ばいきそまそはどこまでも性格のゆがんだ奴だから(きっと前世で人殺しとかしてると思う)、水鉄砲や卑猥な形の機械で僕の弱点である顔をしつこいまでに狙って反撃をしてくるよ。

「これでも食らえっ!」>ドピュッ!

「うわっ!顔が濡れて、力が出ない……!」

そう、僕は顔が濡れてしまうともうダメなんだ。あと、しいたけとかもダメなんだ。あの独特のニオイがね……。でも、そんなときいつも助けてくれるのは、ジャメおじさんとバテ子さん!

「アソパソマソ、新しい顔よ!」

紹介が遅れたけれど、バテ子さんというのはジャメおじさんのアレだよ。ママさんバレーで鍛えた肩ここにあり、剛速球で投げられた新しい顔は毎回僕の頭部にジャストフィット!

「……げんき100倍!アソパソマソ!!!」

新しい顔を得た僕の力は無限大!得意の一撃必殺、アソパンチでばいきそまそをぶっこr……ぶっ飛ばすんだ!

「ガーギグーゲゴー!」

やれやれ、これにて一件落着。街に平和と秩序をとり戻したよ。いつだって必ず正義が勝つんだ。悪い奴としいたけは絶対に許さない!

 

たしかに、毎日毎日パトロールをして、毎週毎週ばいきそまそと戦って、疲れると感じることは僕にだってあるよ。これまでだって、何度もくじけそうになった。やぶれかぶれて自暴自棄、そんなのは日常茶飯事だった。けれども、僕のおかげで救われる誰かがいる。僕を応援してくれる誰かがいる。僕を待ってくれている誰かがいる。そして、ともに戦う頼れる仲間と、大好きな友達がいる。(あとカレーパソマソもいる。)だから僕は戦える。みんなの気持ちに応えたいと思う僕がいる。これが僕の――これこそが僕の、生きる、理由なんだ。

 

まあ、地道に努力してきたし?人気も知名度も今じゃうなぎのぼりだからね(笑)まじ、自分ぱねぇっすよ、そこらのYouTuberごときには負けてない~とか言ったりして?(笑)なんてったって僕のグッズとかめっちゃ売れてんすよ、キーホルダーとかスマホケースとか。あと顔がデカデカとプリントされたTシャツとかね、あれほんとハズイからやめてほしいんだけど(笑)あとなに、DVD?ブルーレイ?なんかも売っちゃったりして。しかもその購入特典、なんと僕との握手会だからね(笑)やばくない?俺アンパンだから、手とか握られたらあんこはみ出る(笑)

 

そんなこんなで、忙しない日々が続いていた。僕は休む間もなく働いた。お腹を空かせた動物たちを助けたり、ばいきそまそと戦ったり……でも、それで守られる平和な日常がある限り、僕の正義の炎が消えることは決してなかった。

ところが、ある日のことだった。僕は見てしまったのだ。ジャメおじさんが、ばいきそまそと何かを話しているところを。

「ジャメおじさん……?」

「……。やあ、アソパソマソか……。お前、パトロールはどうしたのじゃ?」

「今日は雨が降る予報なのでお休みなのです、そんなことよりも、ねえ、ごまかさないでください。そこにいるのはばいきそまそですよね?こそこそと、何をやっているんですか?どうしてジャメおじさんが、ばいきそまそと一緒にいるんですか……?」

鉛のように重たい雲が、僕らの頭上を覆っていた。

 

「…………イースト菌

沈黙を破ったのは、ジャメおじさんが静かに告げた一言だった。

「お前は、おかしいとは思わなかったのかのう?なぜいつも、一週間に一度、ほとんど決められたように周期的にばいきそまそが現れるのか……」

「……ジャメおじさん、何を言っているの?どうしてそんな顔をするんですか?これまでだって、いつもピンチになった僕を、助けてくれたじゃないですか!できたての、新しい顔を焼いてくれた……僕を助けてくれた……!」

「……お前は、お前が窮地に陥った時に新しい顔が作られると、思っていたんじゃね。しかし、それは発想が逆なんじゃよ。こうは考えられなかったかのう?新しい顔を作るために、お前がばいきそまそと戦っていると」

大きな雨粒が、窓ガラスを叩いた。

「よかろう、今日の夜、私の部屋に来なさい。ただし、一人でくること。……すべてを、話すときがきたようじゃな」

 

薄暗がりに広がるジャメおじさんの部屋には、薬品のにおいが立ち込めている。夜にかけて雨脚は強くなり、部屋には降りしきる雨音が響いていた。

ジャメおじさんはゆっくりと話し始めた。

 

言ってみれば、つまりわしらパン工場は政府なのじゃよ。わしらは、この国――猫もウサギも、そして私たち人類も、下等から高等にいたるまであらゆる種族が共存し、共生していかねばならないこの国を、合法的に統治することが認められた唯一の機関なのじゃ。

その昔、人類が地球を代表する種族として繁栄していた時期もあった。そう遠くもない昔のことじゃ。しかし度重なる環境破壊に動物たちが適応した結果ともいえよう、あるいは傲慢な人間に対して神が下した罰だったかもしれない。ある日突然、これまで我々人類が格下とみなし、ペットや見世物として手懐けてきた動物たちが、二足歩行と言葉を覚え、その瞳に理性の光を宿し始めたのじゃ。彼らは人間を模倣しながら社会的な生活様式を身につけるようになり、時には新文明の曙すら予感させることもあった。我々は焦った。これまでのように生態系のてっぺんで胡坐をかいていられる時代はとうに終わったと。

そう、それだけ多様な種族がほとんど友好的かつ平等に暮らしながらも、しかし我々人類がこれまでのように他種族を支配していくための方法が喫緊の課題となったのじゃ。そこで考えられたのは次の二つ。

一つ、食糧の生産・流通体系を統制することで、全ての種族を単一の国民としてまとめあげ、統治すること。二つ、地球上で依然として原初的な生存形態にとどまっている、より下等な生物種を共通の敵として演出し、不満や不平をそちらに仕向けることで動物たちによる人類への対抗意識を懐柔すること。

食糧の問題は重要じゃった。なにせこれまで肉食だ、草食だ、なんてやっていた動物たちが突如として自由な生存の権利を主張し始め、ややもすれば種族どうしで一触即発などという緊張状態に陥いることもままあったのじゃ。しかし我々からしてみれば、この動物どうしの諍いを利用しない手はなかった。彼らが肉食と草食との垣根を越えて共通に捕食しうる食糧を人類が供給すれば、彼らを支配下に置けるのではないかと考えたのじゃ。なんといっても、食事は生存のためには欠かせない。そこを押さえて、管理して、牛耳ってしまえば間違いないと踏んだわけじゃ。幸い動物たちは理性こそ芽生えつつあるが未だ高度な科学技術をもたない。だからこそ我々はその専売特許を惜しみなくつぎ込んで作ったのじゃよ、君たちみたいな歩く食糧をな……。そう、『パンがないのなら、作ればいいじゃない』――権力に驕れた支配者の末路を知るだけでは歴史に学ぶとは言えないのう、むしろ歴史を裏側から読むことが大切じゃ。彼らはどうすべきだったのか、私たちはどうすればよいのか――我々は二足歩行と言葉を習得した動物たちの脳を分析し、そのメカニズムを解明し、しかもそれを食糧に応用した。それは画期的な発明じゃった。貧困や食糧不足で苦しむ動物たちがいれば、彼らが不満を募らせて団結し、あまつさえ暴動や革命を起こしてしまうまえに、意志と理性を携えた食糧たちが動物たちのもとへと自らの足で赴き、自らの顔面をちぎって食糧の配給を行う。必要とあらば警察や救護の役割をも進んで買って出る。わしらはただパン生地をこねているだけで、社会福祉が勝手に歩いていくのじゃよ、そして彼らの辿った道筋はそのままこの国を覆いつくす権力の網の目となって人類の支配をもはや疑いえないものへと変えていく。この偉大な発明を買われてパン工場が行政府に、そしてこのわしが政府の長に任命されたのは当然の成り行きじゃった。

次に、共通の敵を作り出すこと――これはもうお前も気づいているんじゃないかのう?そう、お察しの通り、ウイルスや細菌類じゃ。彼らのなかにも一部ではあるが、言葉を覚え、二本足で歩き始めたようなものもいる、ちょうど、お前の“お友達”のばいきそまそのようにじゃな。さて、私たちは時に他者のことを理解できないと思う、怖いと思う、自分たちとは異なる何かとして遠ざけたいと思う――動物たちが理性によって共存と連帯を固めた今となっても、そうした毒々しいヘイト感情は消えることはなかった。むしろかえって増大したと言っていい。種族を超えて平等な関係性を結んだように見えるからこそ、見えないところでは他者や他種族に対する嫌悪がどうしようもないほどに膨らんでいく。私たちはそうした殺意と悪意の矛先をまとめて「ばいきん」一つに仕立て上げればいいと考えたのじゃ。ところがじゃ。実のところ、ウイルス・細菌類と、動物・人間とは、気づきにくいがお互いに依存し合って生きているという一面もあるにはあるのじゃ――まあ、それが気づきにくいという事実の方がわしらにとっては利用価値があるのじゃがな。ともあれ、我々も時に「ばいきん」を必要とする。例えば発酵食品をつくったり、一部の菌によって体内の環境を整えたりなどじゃ。しかし我々人類が下等な菌におめおめと頼っているところを他の動物種族に知られてしまっては、これは弱みを握られ、付け込ませる隙を与えることを意味する。これでは人間様の面目が立たないというものじゃ。じゃからわしら人類は、他の種族にはばれないようにして、菌勢力に密約を結ぶよう迫ったのじゃ。その内容は、つまり、週に一度、示し合わせたタイミングで菌勢力代表のばいきそまそを暴れさせる。そこに我々がばいきそまそを退治するアソパソマソを向かわせる。すると、全種族、全国民の注目が一度にそちらに集まる。テレビ中継はそのためのものじゃ。その場にいるものも、お茶の間でお前たちを見守るものも、あるいは固唾をのみ、あるいは興奮しながら、だれもかれもが夢中になってお前の応援を始める。国民の視線がお前たちにくぎ付けになっているその裏側で、わしらは菌勢力の側から物資を受け取り、またわしらの側からも彼らにいくらか物資を提供してやる、いわば貿易を行っていたのじゃよ。お前たちが哀れなプロレスで目くらましを続けているあいだにじゃな。

どうして、一方的に嫌われるだけの損な役どころを、ばいきそまそや菌勢力が引き受けたのかって?それは簡単じゃよ。わしら人間の方が彼ら菌よりも強いからじゃ。実はお前なんていなくても、わしら人間は菌を完全とは言えないまでもほとんど滅ぼしてしまえるだけの技術を既に持っているのじゃよ。国と国との力関係が背後に隠された脅威によって決められることは昔から変わらぬ摂理じゃろ?わしらはいわば不平等条約によって、赤鬼を泣かせるための不憫な青鬼役を菌勢力に押し付けたわけじゃ。

大量に販売されているお前のグッズや活躍を記録したDVDも、握手会も、これで納得がいくじゃろう?ははは、考えの浅いものはお前の人気にかこつけて大儲けを狙い、ビジネスしてるんじゃないかとわしらを非難するようじゃな。しかしわしらが本当に欲したのは金銭的な利益なんぞじゃあない。絶対的で圧倒的な支配力と、それを支えるための強固な信念――いわば愛国心じゃよ。お前は、悪い国のばいきんをやっつける、文明国側のシンボルとなった。動物たちは熱狂する。お前のアイコンを国や政府そのものと同一視して賛美称賛する。お前の勝利はなによりも人類の叡智の勝利であり、科学技術の勝利であり、そしてお前を生み出した人類が動物たちを支配することを動物たち自身に納得させ、正当化させ、人類を崇め奉らせるようにするための物語なのじゃよ。

この事実を知らなかったのはなあ、かわいそうなアソパソマソよ、お前と動物たちだけなのじゃよ。ばいきそまそは我々と通じている。なあ、おかしいとは思わなかったのかのう、いつも決まった時間に現れたばいきそまそが、いつも同じような展開でいとも簡単にやっつけられて、しかし完全に死んでしまうことはなく、いつもどこかへと消えていく……あまりにもうまく行きすぎじゃあないかのう?もちろん、馬鹿な大衆は逆転勝利のシナリオを好むから、いつも一度はまずお前がやられかけるのじゃ、そしてそこにおよそ偶然とは思えないほどタイミングよくわしらが現れ、新しい顔を投げ渡す……なあ、気づいているかのう、この新しい顔だって……お前が何よりも憎み、お前が何よりも悪とみなし、命をふるわせて戦い、正義の名に懸けて滅ぼそうとしてきた「ばいきん」のおかげでできているのじゃよ?おいしくて、生きているパンをつくるためには、大量のイースト菌が必要になる。それだって、菌勢力からの輸入によって可能になっていることなのじゃ。お前の顔交換は、わしらと菌との取り引きが終了したことの合図を意味している。それを見たばいきそまそは、その日の仕事が終わったと判断し、毎度毎度、ひねりも工夫も新しさもないお前のそのパンチで、どこまでも飛ばされていくふりをするのじゃ。なあ、アソパソマソよ。哀れで、愚かで、かわいそうなアソパソマソよ。お前自身が、この世でもっとも憎み続けた、その菌によってこそできていると、その真相を知った気分はどうじゃ?最もあつく信頼を寄せ、父として仰ぎ、尊敬し、慕い続けてきたわしに裏切られた気分はどうじゃ?

悔しいかのう?それとも怒っているじゃろうか?もしくは戸惑いで声も出ないかもしれんのう。けれども……お前だって本当は、分かっていたんじゃないかのう?どこか茶番めいた戦闘が、いつまでも続けられているということを。それでも、お前はやめようとはしなかった、あえて真実を知ろうとはしなかった。お前の、お前を支える正義とやらがそれを許そうとはしなかった。いいや、そんなに美しいものじゃない。お前は嬉しかったのじゃ、沸き起こる歓声が、期待のまなざしが、そしてヒーローの名を欲しいままにする輝かしい自分のその姿が!驕っていたのじゃよ、そして溺れていた。人気と熱気に酔いしれていた。そうすると欲望はとまらなくなった。僕はヒーローだ、僕は正義の味方だ、そう思うことで、そう信じられることで、単なる、たかが食糧ごときの分際で、生きる意味を見出そうとしたんじゃないかのう?何のために生まれて、何のために生きるのか。それは生きていれば誰しもがとりつかれる答えのない問いであり、我々を底なしの不安で苛み続ける……ああ、わしは、フランケンシュタイン博士のように、名前のない怪物に命を吹き込んでしまったのじゃ……怪物は、生まれたこと、生きること、生きていくことの意味を問い続ける……なんと罪深いことじゃろう。そんなとき、「正義のヒーロー」が、怪物の一つの答えとなった。「アソパソマソ」が、怪物のたしかな名前となった。お前はそれに寄り縋った。実存的な意味を見出し、存在論的不安を消し去るために、存在根拠をでっち上げた!なあ、アソパソマソよ、もっとわしをその目で見るがいい……何もかもを踏みにじられた者の、寄る辺ない悲しみと果てのない憎悪に燃えるそのまなざしで、もっとわしを睨みつけるがいい……!

お前は気が付いていないのかもしれない。わしらが作っているのは、決してお前の「新しい顔」ではないのじゃよ……。本当にわしらが作っているのは、お前の「新しい頭」……そう、顔面の筋肉だけじゃあない、脳細胞から、神経にいたるまでの複雑な組織を備えた、ありとあらゆる技術をありったけ注いだパンなのじゃよ……なあ、お前の記憶をいじることなんて、わしにとっては造作もないことなのじゃ。ちょっとあんこの量をいじってやるだけじゃ。そうするとお前は、すべてを忘れる……。焦げるくらい網膜に焼き付けられたお前の本当の敵の顔も、心根に届くほど奥深いその悲しみも……。哀れで、けなげで、そしてかわいそうなアソパソマソ……。新しい頭になってしまえば、お前はまた単純な倫理にけしかけられた傀儡として動き始める。はっはっはっはっは……そうしてまた始めようじゃないか、愚かしい動物たちにおくる最高のショーを。愛おしいほど滑稽で、狂おしいほど愉快な生活を。……そう、お前が命を懸けて守り抜いた、どこまでもニセモノの日常を――。

さあ、こっちへおいで。お前は、わしのかわいい正義のヒーローじゃよ。